インタビュー

阿寒国際ツルセンター 主任解説員
河瀬 幸Miyuki Kawase

湿原の神、タンチョウと同じ大地で生きる。
タンチョウに残された生息地、釧路湿原

「皆さんが今、歩いている床はふかふかですね。これは、春から夏の間、タンチョウが生息する湿原を再現したものです。湿原は、エサがたくさんあり、ヨシで体を隠すことができ、そしてぬかるみが外敵の侵入を阻む役目もします。だからタンチョウは安心して産卵と子育てができるのですね。かつては北海道各地や本州でも確認されていたタンチョウですが、開発によってどんどんすみかを追われ、たどり着いた場所が釧路湿原でした...」
阿寒国際ツルセンターの展示コーナーをめぐりながら、河瀬幸(みゆき)さんの声が観光客を引き込んでゆく。
「タンチョウは一度つがいになると生涯添い遂げる、一途な生き物です。夫婦は、オスが"コー"と鳴くとメスが"カッカッ"と、ワルツのようなリズムで鳴き合います。これは愛情を確かめ合ったり、縄張りの主張をしたりする時の掛け合いです。"君は今日も可愛いね""あなたも素敵よ"などと言っているのでしょうか」。このようにタンチョウの生態や行動を、軽妙な挿話を交えて伝えるのが河瀬さん流である。

grus_1.jpg 解説を行う河瀬さん。阿寒国際ツルセンターの屋外には飼育ケージがあり、自然に近い状態でタンチョウの姿を1年中見ることができる。夏季はバードウォッチング・スポットとしても親しまれ、6月は約120種の鳥が確認されている。

grus_2.jpg 河瀬さんが最も美しいと感じる日の出時間のタンチョウ。雪より白いタンチョウが、朝日に染まりながら刻一刻と色を変えてゆく様は圧巻。

保護の入り口、それはタンチョウを知ること

タンチョウは繁殖地を求めて釧路湿原へと集まってきたものの、冬は川が凍結してエサが獲れず、その数は減少の一途をたどる。明治期までに絶滅したかに思われたが、大正末期に釧路湿原で十数羽のタンチョウが確認され、1952(昭和27)年に国の特別天然記念物に指定されると、道東各地で冬季の人工給餌活動が行われるようになった。
タンチョウの越冬地で、人工給餌発祥の地でもある釧路市阿寒町上阿寒地区。ここに阿寒国際ツルセンターはある。
国や各自治体の支援、そして地元の人々による保護活動により、現在北海道で確認されているタンチョウの数はおよそ1,550羽。そのうち300~360羽が、冬季に阿寒国際ツルセンターの給餌場へとやって来る。
2005年から阿寒国際ツルセンターに勤め、タンチョウを見つめてきた河瀬さんの目や心には、数多くのシーンが刻まれている。大空を群れで飛行中、接近してきた者に"近寄るな"とクチバシを向けて文句を言うタンチョウ。また寝床の川へと移動する際、どのタンチョウも過酷な先頭になりたがらず、しばらく飛び立たない様子など。河瀬さんが語るエピソードはどれも興味深い。

grus_3.jpg 冬、阿寒国際ツルセンターの給餌場には「タンチョウ対オジロワシのバトル」を目当てに、世界中からバードウォッチャーが訪れる。入場は隣接する「タンチョウ観察センター」から。観察できるのは12月から2月中旬までの毎日14時~。

愛と命と自然を奏でるK子とマモルの物語

2012年11月、片翼が折れたタンチョウが保護された。足の個体識別リングを見ると「K02」の文字。「釧路市丹頂鶴自然公園」で生まれたメスだと分かり、「K子」の愛称がつけられた。後日、K子は近くの寝床から歩いて阿寒国際ツルセンターの給餌場に姿を見せるようになる。しかも意外なことに、そばにはオスがいた。
「片方がけがをした場合、夫婦を解消するタンチョウは多いのですが、このオスはK子と給餌場で再会し離れなかったようです。二羽を見守っていると、群れが寝床へと帰る時刻。K子は夫と並んで助走を始めました。K子は飛べないのに...。案の定、K子だけ飛べずにフェイドアウト。でも次の瞬間、感動的なことが起こりました。群れと一緒に飛び立った夫が、K子の頭上をぐるぐると2度回り、そして飛んで行ったのです。また明日ね、とでも言うように」。その愛情深いシーンを見て、河瀬さんは号泣したと言う。
その冬中、歩いてくるK子と、マモルと名づけられた夫は給餌場で毎日落ち合い寄り添っていた。河瀬さんを始め、同センターの職員やタンチョウファンの願いは一つ。翌年秋にまた、K子とマモルが子どもを連れて戻ってくること。しかし、その願いは叶わなかった。
切ない物語だが、K子とマモルは河瀬さんにタンチョウの事実を教えてくれた。そして、ここを訪れる人々へと伝えられてゆく。

grus_4.jpg タンチョウはアイヌ語で「サルルンカムイ」と呼ばれる。湿原の神という意味だ。冬の釧路湿原エリアでは空を舞う姿もよく見られる。

※タンチョウの写真はいずれも河瀬さんが撮影。

grus_5.jpg

阿寒国際ツルセンター 主任解説員
河瀬 幸 Miyuki Kawase

1976年、釧路市阿寒町(旧阿寒町)生まれ。
2005年より、日本で唯一のタンチョウ保護施設「阿寒国際ツルセンター」に勤務。同センターで解説業務を行うほか、講演会等でもタンチョウと人との共生について情報を発信している。
自ら撮影した写真と文章で綴るブログ[タンチョウ&ミキィ]http://blogs.yahoo.co.jp/aicc_grusも好評。

道東圏のアクティビティ情報はコチラ

インタビュー

サイトについて

釧路湿原、阿寒湖、摩周湖。
本サイトは雄大かつ希少な自然と生態系をもつ阿寒国立公園と、釧路湿原国立公園内にある3つのエリアへの旅をより楽しく、快適に満喫いただくためのポータルサイトです。
各エリアの魅力のご紹介や多彩なアクティビティのご予約、エリア間の移動支援システムなどを多言語でご用意しています。
この地ならではの美しい自然にふれる旅に、どうぞお役立てください。

水のカムイと出会える旅へ 釧路湿原・阿寒湖・摩周湖

このページの先頭へ戻る